用語解説

考えをまとめる、整理する ― 抽象化する、概念化する ―

主体的に学び取ったことを、自分の力でまとめたり整理したりする活動は、学びを深めるための見方や考え方を育むことにつながります。調べたことをそのまま表現するのではなく、調べる目的に沿って、自分の力で学んだ内容を文章や図に表現することで、学びの全体をつかむことができるようになります。
例えば、分数の計算を学習していて、練習問題が解けたら、分数の計算方法がわかっています。そこで、もう少し考える時間を取って、自分の言葉で分数の計算方法を説明する文章を書いてみましょう。「3分の1足す2分の1は、6分の2足す6分の3にして〜」などと個別の事例を具体的な数で説明するのではなく、「まず、分母を同じ数にするために〜」など、他の数の場合にも応用できる抽象化した言葉でしくみを説明します。文章で難しければ、例題を作ったり、図を使って分数の計算方法を説明したりするのです。こういう活動が、概念化という思考方法のひとつで、考えをまとめて、学んだことを確認するときに使います。違う方法や、違う問題などで学んでいても、この概念化した説明で、友達や先生と話し合えば、理解したことを確認することができます。
すべて自分の力で文章や図を作り上げることができなくても、グループやクラスの仲間の視点や工夫を相互に参照して表現できるようになる場合もあります。これまでは、調べたことをそのまま発表したり、練習問題を解けるようになったりすることが学びのゴールのようにとらえられていることがありましたが、これからは、学んだことを元に様々な考えや自分なりの見方を他者に表現し、意見をもらったり考えを広げたりすることが、本来の学力を育むことにつながると考えられています。

学習指導要領

全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省では、学校教育法等に基づき、各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めています。これを「学習指導要領」といいます。
「学習指導要領」では、小学校、中学校、高等学校等ごとに、それぞれの教科等の目標や大まかな教育内容を定めています。最新の学習指導要領には、「子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。」と記載されています。
学校の授業改善の推進として、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた取り組みを進めています。

ふりかえり ― 学びの質を高める ―

授業の終わりに、その時間に学習した内容や感想を書いたり発表したりすることが多い「ふりかえり」。教師側での学びの「定着確認」や「把握」の目的で使われることが多いですが、本来は子供たちが、自分が何に気づき、次にどのように学ぶかといった見通しを立てるために使われるものです。また、授業の最初や途中で、関連のある内容を思い出すために振り返ってみることもあります。「ふりかえり」の内容には、簡単な順から、「したこと(活動)」「わかったこと・できるようになったこと」「どう学んだか・どうして学べたのか(学ぶことができた理由)」という種類があります。
「今日の国語では、登場人物の役に分かれて本文を読みました」というように、どんな活動をしたのかを振り返ったとします。これは、したことの記録は残りますが、その後の学びに参考になるとはいえません。そこで、「したこと」から、「わかったこと・できるようになったこと」を探して記録する(書き出す)ことで、「したこと(=体験)」が、別の場面でも使える「わかったこと(=経験)」として、言葉になって残っていきます。これが、その後の学びに使える「ふりかえり」ができたことになります。さらに、「このように考えたから、わかった」や「このようにしたから、できるようになった」ということを「ふりかえり」として記録していくことができれば、自分の得意な学び方や、改善方法も見えてくるようになります。この「ふりかえり」を活かして、子供一人一人が、自分に合った学び方を身につけてほしいと願っています。

学ぶと習う・教わる ― 似ている言葉を整理して学びについて考える ―

「学ぶ」という言葉は、具体的な学習内容を決められていない場面で使うことが多くあります。対象が人(○○先生に学ぶ)であったり、こと(○○さんの生き方に学ぶ)であったりするように、「学ぶ」という行為は、教科の内容を身につけることよりも大きく、自分から行動して能力を広げるイメージです。一方で、「習う・教わる」とはその内容が決まっていて,相手から指導してもらうことでこの活動は成立します。言い換えれば、習う内容がないと習うことはできません。「習う・教わる」活動で知識や技能を身につけるときにも、「これができるようになりたいから。」とか、「このことを知ったら、わからなかった問題が解決できるから。」というように自分で課題をもつことが有効です。学習指導要領で示されている、「思考力や学びに向かう力」は、習えば身につくのではなく、学習内容に対して「なぜ、どうして」という「問い」を立て、さまざまな学習活動を経験して高めていくものです。子供たちには、「自分から学ぶ」ことを繰り返すことで、「習う・教わる」を含めた「学ぶ」こと全体のイメージをもてるようになってほしいと願っています。

練習する・くりかえす ― 何を身につける時代なのか ―

学習活動で、「練習する・くりかえす」の効果は、多くの大人は理解しています。練習する、くりかえす、といったことが、技能や知識の定着に役立つことを経験的に知っているからです。一方で、「練習する・くりかえす」を必ずしも好きではない子供もいます。練習してできるようになると、練習する意味が理解できるようになります。練習が楽しいと、積極的に取り組むようになります。
例えば、ゲームでポイントがついたり、キャラクターが強くなったりすることは、楽しみながら失敗と挑戦を繰り返すことのしかけです。「練習する・くりかえす」の目的は、「無意識にできるようになること」です。「無意識にどんなことができるようになれば、その後の学びに役立つのか」といった、練習した後の姿が浮かぶようになると、励むようになるでしょう。無意識にできることで、より高度な学びや、表現ができるようになります。また、何を無意識にできる必要があるかは、社会の変化や技術の進化によって変わってきます。子供たちと一緒に、これからの時代に練習すべきことを考えてみませんか。

学びの活動を経験する

今の学校の教え方では、「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」も大事にしています。これを簡単に言うと、「自分で考え、みんなで話し合って深く学ぶ」ということです。学校では、子供たちが自分で問題を作り、調べたり話し合ったりしながら学ぶ授業が行われています。
例えば、社会の授業で水道の仕組みと役割について学ぶ場合を考えてみましょう。目標は、水道事業の全体を理解し、水の大切さを知り、その使い方を考えることです。この目標を達成するために、副読本や自治体の資料、ホームページなどで調べます。また、社会科見学に行って実際に施設を見たり、職員に話を聞いたりすることもあります。学校によってやり方は違いますが、「調べる」活動に時間をかけて行います。
しかし、調べたことをそのまま書くことがゴールではありません。調べたことを自分の言葉でまとめ、最初に考えた問題に対する答えを見つけることが大切です。
このような学びの活動にはいろいろな役割があります。活動と活動をつなげたり、行ったり来たりしながら考えや発表資料を作ります。これらの活動は、大人になって問題を解決するときにも役立ちます。

表現することで考える 発表や話し合いの役割

授業で発表や話し合いをすることが増えてきました。読んだり調べたりしたことを、そのまま答えるのではなく、そこから自分の考えを言ったり、作品を作って表現したりします。
このような授業では、一人でじっくり読んで考えたり、ノートに書いたり、教科書にマークをつけたりする時間が大切です。そのあとで、自分の考えたことや理由をグループで話し合います。
子供たちは話し合いを通して情報を交換し、問題を解決します。友達の考えを学ぶことで「お互いに学び合う」ことができます。話し合いをたくさんするクラスでは、学力テストの成績が上がっている(※1)ところもあります。それは、発表のために考えること自体が思考の練習になり、話し合いに参加することでさらに考える力が伸び、知識が深まるからです。
※1:谷川他:小学校国語科における“学習者用デジタル教科書”活用による学力変化, AI時代の教育論文誌, Vol.6, pp.8-15(2024)  https://eduaiera.org/230068-2/